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2024年01月01日

2024年がはじまりました。

2024年がはじまりました。原稿にかかりっきりなまま、ろくに昨年をふりかえるまもなく、今年をむかえてしまいました。

コロナ明けの昨作は韓国、ノルウェー・アイスランド、カナダ・米国を訪問する機会を得ました。韓国行きは1週間と短期調査でしたが、2022年の太地調査に参加してくれた大学院生のほか、ルポライターと元砲手にも参加してもらってのmulti-sited researchとなりました。現地で専門家の分析を聞く、貴重な機会となりました。

国内では「長崎おくんち」で念願の「脊美鯨の潮吹き」を見学する機会を得て、長崎における「古式捕鯨」という文化遺産の偉大さと、それを継承することの意義と課題について考えさせられることになりました。これまでは近代捕鯨の勉強を中心にしてきましたが、今後は列島各地の古式捕鯨にも視野を広げていきたいと考えています。




まずは韓国調査の報告をはじめ、ひとつひとつ宿題を片づけていきたいと思います。昨年同様、今年も慌ただしい毎日となりそうですが、焦らずに納得のいく仕事を心がけたいと存じます。昨年度に書いたもの、話をしたものは、以下のとおりです。

編著:
・『クジラのまち 太地を語る——移民、ゴンドウ、南氷洋』,英明企画編集, 352頁,ISBN 978-4-909151-81-0.

論文:
・「日本近代捕鯨史・序説——油脂間競争における鯨油の興亡」,『国立民族学博物館研究報告』47(3): 393-461.doi/10.15021/00010032
・「鯨食文化と鯨食習慣の重層性——鯨食文化はナショナルなのか?」,森下丈二監修,『捕鯨問題群を開く——利用・管理・法解釈』鯨研叢書16,日本鯨類研究所,4-36頁.ISSN 2758-4038.
・“The McDonaldization of the sea cucumber: Changes in foodways of an ancient delicacy in Northeastern Asia,” In Annie Mercier, Jean-Francois Hamel, Andrew D. Suhrbier, and Christopher M. Pearce, The World of Sea Cucumbers: Challenges, Advances, and Innovations, London: Academic Press, pp. 51-63. ISBN 9780323953771

そのほか:
・「ナマコを想う(その1)」,『GGTニュースレター』125: 1-4.
・「日新丸から関鯨丸へ——母船式捕鯨業のあらたな挑戦に贈る」,共同船舶株式会社監修,『捕鯨に生きる』,108-111頁。

講演:
・「グローバル化する和食」和食の未来——外から見た和食・内から見た和食」,第27回ひと・健康・未来シンポジウム 2023 京都,公益財団ひと・健康未来研究財団,2023年2月11日。
・「母船式捕鯨業のいま——2021NP-1Wへの乗船体験から」,「日本の商業捕鯨の現状を考える——環北太平洋地域研究の視点から」シンポジウム,国立民族学博物館,2023年5月28日。
・「太平洋のフロンティア世界を生きる——サンゴ礁のマルチな漁法」同志社大学人文科学研究所第107回公開講演会「東南アジアの山の民・海の民・街の民——小規模生産者たちがつくる経済と社会」,同志社大学明徳館, 2023年7月29日。
・“Save the Whales, Kill the Orangutans?” David Lam Centre, Simon Fraser University, Vancouver, BC, Canada, Oct. 23, 2023.
“Five Years Past since the Resumption of Commercial Whaling in Japan: Report of an Expedition by Nisshinmaru,” Hatfield Marine Science Center Research Seminar, Hatfield Marine Science Center, Oregon State University, Newport, OR, USA, Oct. 26, 2023.
・「鯨とマーガリン」,放送大学東京多摩学習センター公開講演会,放送大学東京多摩学習センター(小平市),2023年12月2日。

研究発表:
・“Roles of Imported Whale Meat from Iceland and Norway in the Japanese Market,” ISAR 7 (The Seventh International Symposium on Arctic Research), National Institute of Polar Research, Tachikawa City, March 6, 2023.
・“Resumption of Japanese Commercial Whaling and Recent Trends in Whale Meat Foodways in Japan,” The 8th Whale Conference. Húsavík Whale Museum, Húsavík, Iceland, June 21, 2023.
・“Trepang and Manilamen: Sea cucumbers beyond Southeast Asian History,” Southeast Asia as Critical Crossroads: Dialogues with Anthony Reid, Toyo University, Tokyo, July 23, 2023.
・「『環日本海/東海捕鯨文化圏』は成立するか? 蔚山調査2023の報告」,観光文学研究会,立教大学観光学部(新座市),2023年11月14日。
・“Whales, Orangutans, and the Amazonian Rainforest: Who will be the Beneficiary of the Edible Oil Resource Development in the 20th Century,” Transnational History 1750 – Present, University of Bergen, Norway, Nov. 22, 2023 (on-line).
  


Posted by 赤嶺 淳 at 09:18Comments(0)研究成果

2023年07月20日

『クジラのまち 太地を語るーー移民、ゴンドウ、南氷洋』




2022年度に学生と一緒におこなった太地調査プロジェクトの成果が出版されます(8月中旬予定)。
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784909151810

はじめて太地を訪問してから、はやくも10数年がたちました。ようやく研究成果を発信できることに、ひとまず安堵しています。これまで「気長に」おつきあいくださった太地町のみなさんにお礼申しあげます。ありがとうございました。

出版社は京都の英明企画編集社。代表の松下貴弘さんとは、不思議な縁でつながっています。25年前、フィリピンから帰国して国立民族学博物館(吹田市)で研究者見習いをしていたころ、かれもまた編集業の修業途上にあり、ともに組織の末端で走りまわっていた仲だからです。

20数年を経て、今回の協働にいたった縁をうれしく思います。残念なことに入稿した原稿を専門ソフトで体裁を整えるだけで、原稿にコメントしない(できない?)編集者が少なくないなか、松下さんは丁寧に原稿を読んでくれ、読み手目線からするどい質問/コメントを多数、投げかけてくれました。

久しぶりにプロフェッショナルな編集者とのやりとりで緊張を味わうことができました。聞き手/書き手側の思いもあり、そのすべてに応答できたわけではありませんが、本書が多少なりとも読みやすい作品に仕上がったとすれば、それは松下さんの編集力によるものです。

読者のみなさんには、太地の人びとの個人史/生活史を味わってもらいたいと思います。その結果として、太地への理解が促進され、複雑な捕鯨問題「群」への理解が深まることにつながれば、編者としてはうれしいかぎりです。教育やNPOの関係者には、個人史/生活史を中心とした調査事例集としても読んでいただけるはずです。

調査の実施体制や編集作業の詳細は、第3部の学生代表・辛承理による「ふりかえり」を参照ください。マニュアル的なものではありませんが、10年以上にわたって「聞き書き」教育を試行錯誤してきたわたしなりのスタイルを提示しています。わたしにとって他者の人生を「訊き」、語り手の声を「聴く」ことは日常的な行為ですが、辛が聞き取った、学生たちの「聞き書き」体験のふりかえりは、わたしにとっても興味深いものでした。

以下、「太地をひらく」と題した序文の一部を紹介いたします。


 本書の目的は、「古式捕鯨発祥の地」であり、「くじらの町」を自認する和歌山県は太地町に暮らす8名の個人史を紹介するとともに、なにかと耳目をあつめる当地の多面的な歴史と現在を発信することにある。
 それぞれの個人史は、聞き手が投げかける問いに語り手がこたえる対話(ダイアローグ)を、ひとり語り(モノローグ)風に編集したものである。インタビュー当時(2022年10月)、語り手は94歳を最年長とし、34歳を最年少とした。他方の聞き手は、大学生と大学院生で、双方の年齢差は4歳弱から60歳超と多種多様であった。
 ゆたかな人生経験をもつ語り手に、20歳代の学生が挑んだわけである。それも初対面であるとすれば、インタビューする方はもちろんのこと、される方も戸惑ったにちがいない。
 
<中略>


 科学は、あらかじめ厳密に手法をさだめたうえで実験をおこない、その結果から仮説を検証していく営為である。よって、誰が実験をおこなおうとも、おなじ結果にならねばならない(再現できなければ、神の手による「捏造」の懸念が生じてしまう)。
 しかし、「聞き書き」は、そうはいかない。聞き書きが対話である以上、おなじ環境でおなじ語り手におなじ手順でインタビューしたとしても、聞き手が異なれば、語りそのものが異なってくる。
 人間のコミュニケーションに重要なのは、その「場」の雰囲気である。酒の有無を問わずとも、つい「のりすぎちゃった」経験は、誰しもあることだろう。たとえば、新潟県出身の小畑さんにインタビューしたのは、おなじく新潟県出身の砂塚翔太であった。本書で提示した語りでは、新潟県に関する内容は割愛されているが、インタビューの冒頭でかわされた新潟についての共通する話題を通じて「場」が形成されたであろうことは、容易に想像できる。その意味では、聞き書きは、一期一会の記録文学でもある。
 もちろん、そうした記録を叙述するためには、それなりの技術を必要とする。そのための訓練過程の一部始終を開示しておくことは意味あることだ。
 拙稿「太地にかかわる」は、副題にあるように、本書の「あとがき」にかえる目的で執筆したものである。かれこれ10年強となった、太地でのフィールドワークをふりかえりつつ、フィールドワークにおける信頼関係構築のむずかしさについて論じ、未来志向の「あとがき」とした。
  


Posted by 赤嶺 淳 at 09:23Comments(0)研究成果

2022年12月27日

コロナ騒動のさきへーー2022年をふりかえって

今年も、「ふりかえり」の時期となりました。このブログを記すためにログインすると、なんと「297日ぶりのログイン、ありがとうございます」とのメッセージ。

コロナ騒動も出口が見えつつあり、あらためて「この3年間は何だったんだろう?」と考えさせられています。Covid-19は、幸か不幸か、日本社会の短所と長所を顕在化させた「事件」だったのではないでしょうか? 責任ある立場にある政治家と幹部級官僚のふがいなさには、うすうすは感じていた、この国の凋落ぶりを痛感させられた思いです。いくら不確定な要素が多いとはいえ、その時点で明らかになっている「科学」的知見の範囲内で、合理的な判断をくだし、その理由と展望を自分の「ことば」で提示できなかったし、しようとしなかった政治姿勢に、日本という国家のあり方を懸念せざるをえません。

そういうわたしも、これまでのフィールドワークを軸に進めてきた研究手法が使い物にならず、途方にくれた毎日でした。それでも、試行錯誤の連続だった文献中心の研究も、「塵も積もれば」の格言どおり、ようやく実をむすびつつあります。昨年(度)が記録的な「不作」だっただけに、今年は反転を実感できた年となりました。わたしの著作など、些細な存在でしかありませんが、自分なりの「ことば」を発信することを心がけました。現在、印刷中の2本(③と④)は、ささやかながらも捕鯨史研究/捕鯨問題群研究にあらたな視点を導入しうるもの、と自負しています。


1)論文(4本):
①赤嶺淳,2022,「鯨食の地域性と保守性——コールドチェーンが変えた鯨食文化」,佐藤洋一郎編,『知っておきたい和食の文化』,勉誠出版,95-128頁,ISBN 978-4-585-33001-1.
②Akamine, J. 2022. “The different currents of Japanese whaling: A case study of Baird’s beaked whale foodways in the Kanto and Tohoku regions,” in Ryan Tucker Jones and Angela Wanhalla eds., Across Species and Cultures: Whales, Humans, and Pacific Worlds, Honolulu: University of Hawai‘i Press, pp. 130-143. ISBN 978-0-8248-8898-5.
③赤嶺淳,2023a,「鯨食文化と鯨食習慣の重層性——鯨食文化はナショナルなのか?」,森下丈二編,『捕鯨問題群を開く——利用・管理・法解釈』,鯨研叢書16,日本鯨類研究所,4-36頁,ISSN 2758-4038,印刷中.
④赤嶺淳,2023b,「日本近代捕鯨史・序説——油脂間競争における鯨油の興亡」,『国立民族学博物館研究報告』47(3): 1-69,印刷中.

2)エッセイ(2篇):
⑤赤嶺淳,2022a,「百聞は経験に如かず——捕鯨者は船乗りである」,『JLSRニュースレター』27: 1-3(再掲『語りの地平』7: 197-200).
⑥赤嶺淳,2022b,「ラーセンのお腹」,『Gobelin』29: 22-23.

3)書評(1本):
⑦赤嶺淳,2022,「チャプスイとチャプチャイ——表記と実態のはざまで 岩間一弘著『中国料理の世界史』」,『Vesta』126: 66-67.

4)口頭発表(5本):
⑧赤嶺淳,「鯨油が語りうることーー南極海と東南アジアをむすぶ視点」,同志社大学人文科学研究所第20期部門研究会第4研究(「ASEAN の連結と亀裂の研究:供給連鎖・資源・領有権の東アジア的地経学・治政学」),2021年度第8回研究会,2022年2月25日,同志社大学人文科学研究所(オンライン)。
⑨Akamine, J. "Resumption of commercial whaling and whale meat foodways," at Sustainability and Crisis in Japanese Foodways (AAS 2022 H-V46), Association for Asian Studies Annual Conference 2022, March 27, 2022, Hawaiʻi Convention Center & Hilton Hawaiian Village Waikiki Resort, Honolulu, Hawaiʻi (online participation).
⑩赤嶺淳,「グローバル・フードシステムを追う:マルチサイテッド・アプローチの可能性」, ワンヘルス研究の学際的アプローチ,2022年5月27日,アジア経済研究所(オンライン)。
⑪Akamine, J. "Sea cucumbers, tomatoes, and grapes: Challenges for optimizing local ecology and resources in depopulated towns in southern Hokkaido," at 2021 International Conference on Chinese Dietary Culture: Chinese Food Culture: Biological and Ecological Perspectives. October 22, 2022. Conference Hall, Chiang Ching-kuo Presidential Library, Taipei (online participation).
⑫赤嶺淳,「ワシントン条約(CITES)における水産動物と東南アジア」,同志社大学人文科学研究所第21期部門研究会第8研究(「東南アジアの小規模生産者に関する部門横断的研究ーー地域経済・社会の内発的発展への貢献を考える」)2022年度第5回研究会,2022年10月28日,同志社大学人文科学研究所(啓明館2階共同研究室A)。

5)講演(2回):
⑬赤嶺淳,「万人のための水族館ーー ナマコを学べるしあわせ」,JAA2022年度通常総会,2022年7月5日,青森県観光物産館アスパム。
⑭Akamine, J. "Prop. 42: Three sea cucumber species in the genus Thelenota proposed by EU, Seychelles, & US," at the SEAFDEC Regional Technical Consultation on Development of the ASEAN-SEAFDEC Common Positions on the Proposed Listing of Commercially-exploited Aquatic Species into the CITES Appendices, 30 August - 1 September 2022, Bangkok, Thailand. Aug. 30, 2022 (online participation).

来年の宿題は、論文3本(英1,和2)に編著本の編集、単著の入稿です。コロナが明け、フィールドワークを再開する前に、まずは、この3年間に読みためたものを吐きだしたいと考えています。

2022年12月27日  


Posted by 赤嶺 淳 at 13:52Comments(0)研究成果

2022年02月02日

鯨食の地域性と保守性




佐藤洋一郎さんが編集した『知っておきたい和食の文化』(勉誠出版,396頁)に「鯨食の地域性と保守性——コールドチェーンが変えた鯨食文化」(95-128頁)を執筆しました。コロナ騒動がおきる直前の2019年12月に脱稿したものです。コロナ騒動では、2020年の春に冷凍食品やインスタント食品がスーパーの棚から消えたし、現在もサプライチェーンが乱れていて、不足する商品群もあります。ですが、食品については、比較的安定して供給されていることは、スーパーなり、商社なり、物流会社なりの努力のたまものだと思います。

本書が大学で教科書として利用されることを想定して企画されたこともあり、以下のような「まとめ」をつけました。社会の変化の功罪を議論するのは無意味なことですが、ある事象を(一見関係なさそうな)ほかの事象群と関連づけて多角的に検討する視座は不可欠なことだと考えています。

量的にも質的にも鯨食を「日本の伝統」と考えるには無理があるかもしれません。しかし、日本各地には鯨食を継承してきた地域があるのは事実です(鯨食の偏在性と保守性)。冷蔵庫とスーパーに代表されるコールドチェーンの浸透によって、鯨食文化はふたつの意味で変質しました。(1)冷蔵庫がなかった時代、鯨肉入りの魚肉ハム・ソーセージが人気を博したことが、その後に到来した畜肉消費時代への橋渡しをしました。(2)スーパー(マーケット)の躍進により、「接ぎ」を見極める目利きがいなくなった結果、鯨肉が「安かろう、悪かろう」の代名詞と化し、やがて豚肉や牛肉にとってかわられることになりました。このように食生活の変化の背景には、さまざまな社会の変化が存在しています。こうした変化を見通せるような複眼的レンズを獲得しましょう。  


Posted by 赤嶺 淳 at 12:23Comments(0)研究成果

2021年12月25日

日新丸の経験を活かすーー2021年をふりかえって

現役生活も残り10年となった2021年は、大きな転換点となりました。

6月11日から8月1日まで52日間にわたり、共同船舶株式会社が所有する捕鯨母船日新丸に乗船し、同社が1Wと呼ぶ操業の一部始終を観察する機会をえたからです。途中、捕鯨船第三勇新丸にも乗せてもらい、13頭のニタリクジラをおくりました。以下の写真は、6月21日(操業7日目)に捕獲したニタリクジラ(オス、体長12.26m、体重15.60t)で、今期9頭目のものです。



これまで海域世界研究を自称してきたものの、船上での生活経験は数えるほどしかなく、いわば「陸から海を眺めるだけ」の研究でした。乗組員さんたちと生活をともにするなかで、「捕鯨者が船乗りでもある」という自明のことに気づかされました。50余日間にわたって18歳から61歳までの100人ちかい乗組員が、かぎられた空間で共同生活するわけです。水産系の学校で学んだ人も、(わたしのような)そうでない人もいます。たしかに無事息災に帰着できたことは、当然のことで、特筆すべきことではないかもしれません。しかし、安全な運航が乗組員それぞれの責任ある行動あってのこと、と体得いたしました。

士官待遇ということで個室をあてがわれ、船内を自由にうごきまわる許可も頂戴していましたし、社員のみなさんと異なり、やるべき日課があったわけではありません。これといってストレスを感じる必要もない快適な環境だったはずですが、下船後2、3週間は、放心状態がつづき、何も手につけることができませんでした。知らないうちにストレスが蓄積されていたのかもしれませんし、それだけ濃い52日間だったのかもしれません(たしかに濃かったことは事実)。

そうした脱力状態から抜けだすことができたのは、9月に入り、授業がはじまってからのことです。秋学期・冬学期には、社会学部の1・2年生を対象とした社会研究入門ゼミで「捕鯨と近代」と題した講義をおこないました。日本における近代捕鯨の歩み120年を明治以降の近代国家建設、とりわけ国家が水産業にもとめた役割との「絡まりあい」に着目して再解釈しようとするものです。

構想自体は以前からあたためていたとはいえ、カニやサケ・マスをもとめた北洋漁業や南洋におけるカツオ・マグロ漁、さらには(日本水産を擁する鮎川義介の)日産コンツェルンの満洲経営まで視野を広げねばならず、読まねばならない文献の膨大さにおそれをなし、ほおっておいたテーマでもあります。しかし、コロナ騒動の渦中に生まれた時間を活用すべく昨年度より本腰をいれました。まだまだ未完成の、現在進行形の研究課題ではありますが、わたしの研究生活をふりかえりつつ、いかに研究を進めているのか、その手のうちをあかしながら進めました。「入門ゼミ」たる所以でもあります。以下は、各回のテーマです。

① 捕鯨問題群を斬るーー本講義の目的
②「食生活誌学」研究の視座ーーモノ研究へのいざない
③ Super Whale神話の克服ーー鯨種と捕鯨の多様性
④ 三陸沖にニタリクジラを追うーー捕鯨母船日新丸乗船記
ノルウェーにおけるミンククジラ漁ーー比較捕鯨学のすすめ
⑥ 近代捕鯨の120年ーー日本の近代化と水産業
⑦ クジラとオランウータンーー油脂でたどる不可視な関係
⑧『グリーン・ライーーエコの嘘』(2018年、オーストリア、97分)
鯨食文化はナショナルなのか? 捕鯨文化と鯨食文化
武田慎太郎砲手(共同船舶株式会社)の講演
⑪ グループ発表I
⑫ グループ発表II
⑬ ふりかえり

こうして今年を回顧する時候となり、ようやく乗船体験をふくむ、つぎの著作の構想がかたまりました。わたしがマゴマゴしているあいだにも、日新丸船団は、2Wと3Wを終え、11月中旬に今年の操業のすべてを終了しました。操業を終えたみなさんと下関で再会した際、「執筆、進んでいますか?」と訊かれ、うっかり「来年、みなさんが操業を終えるころにはお見せできるはずです」と答えてしまいました。

研究も教育も、それぞれ充実した1年でしたが、2021年は公表できた成果が少ない1年でもありました。現在、4本が印刷中だとはいえ、反省すべき1年でもあります。その反省もこめ、また乗組員さんとの約束を反故にしないためにも、2022年は全力で成果還元にに取りくむ所存です。

論文
1) “A preliminary analysis of coastal minke whaling in Norway: Where did it come from, and where will it go?Senri Ethnographical Studies 104: 53-71.
2) “Tastes for blubber: Diversity and locality of whale meat foodways in Japan,” Asian Education and Development Studies 10(1): 105-114.

エッセイ
3) 「不老不死とリビドーと——ナマコの磁力」,池谷和信編,『食の文明論——ホモ・サピエンス史から探る』,フォーラム人間の食1,農文教,379-384頁.

事典項目
4)「石毛直道」,野林厚志編集代表,『世界の食文化百科事典』,丸善出版,32-33頁.

書評
5) 「敷田麻実・湯本貴和・森重昌之編著『はじめて学ぶ生物文化多様性』」,『Wildlife Forum』25(2): 39.
6) 「小川真和子著『海をめぐる対話 ハワイと日本』(塙書房、2019年)」,『史苑』81(2): 167-171.

研究発表
7) 「鯨が語るアジアの近代——フロンティア・マーガリン・マルチサイテッド」,従来型フィールドワークがつくる社会生活研究会,東京大学東洋文化研究所,2021年3月26日,オンライン.
8) “Private collections make public heritage: Displaying whaling as an industry in Japan,” The Rise of Private Museums and Heritage in East and Southeast Asia, 8-9 Sept 2021, Bristol University, Sept. 8, 2021, Online.
9) 「ガリバーに挑む——母船式捕鯨業のいま」,第4回Food & Foodways勉協会,一橋大学,2021年10月1日,オンライン.
10) 「三陸沖にニタリクジラを追う——捕鯨工船日新丸乗船調査」,文明社会における食の布置研究会(エコヘルス民博ユニット),2021年10月16日,国立民族学博物館,オンライン.
11) 「拠るべきは、過去か、未来か——母船式捕鯨業のいま」,一橋大学大学院社会学研究科先端課題研究21・科学と社会の未来,一橋大学,2021年10月27日,オンライン.
12) 『マツタケ』に学ぶ——陸と海をつなぐ地球大のモノ研究をめざして」,失われたマツタケ山を探して——「人新世」時代のヒトと自然を考える,龍谷大学里山学研究センター,2021年12月4日,オンライン.
  


Posted by 赤嶺 淳 at 16:36Comments(0)研究成果

2020年12月28日

不自由ながらも、ささやかな充実感も——2020年をふりかえって

今年は、この道にはいって(=研究を志し、修士課程に入学して)30年目の節目でした。近年、ようやく自分なりのスタイルを築け、いい感じで仕事をまわせていただけに、はじめて経験することに狼狽させられつづけた1年でした。

出張がのきなみキャンセルとなった3月初旬から4月初旬にかけては、これまで培ってきた「やり方」を修正せざるをえない現実から逃避したい一心の毎日でした。それでも4月にはいり、大学の方針として「連休明けからオンライン講義」が提示されたころから、気持ちの転換にスイッチがはいったように思います。

勤務校のみならず、大学の対応をめぐっては、さまざまな批判があることは承知しています。それでも、ベストな講義を提供するべく、最大限の努力をしたことも事実です。それは、プロとしての矜持でもありますし、目の前のことに全力投球しないと、どこか自分が崩れそうな恐怖感を感じていたからでもありました。また、4月から大学生となった長男が手持ち無沙汰にしているのを不憫に感じていたからでもあります。よその家庭のお子さんではありますが、「いよいよこれから」というタイミングで夢をくじかれかねない学生たちに、自分なりのベストな教育を提供したい、と考えたわけです。

もちろん、反省も失敗も多々あります。それでも、こうしてふりかえってみると、よく勉強した1年でもありました。さいわい本は山ほどありますし、なんといっても電子媒体のありがたさを痛感させられました。出版社によってちがいはあるとはいえ、6月〜7月末まで無料でコンテンツを公開していた欧米の大手出版社の寛容さにすくわれました。日常的には利益第一の姿勢があきらかで、辟易するほど高価な価格をつけているものですが、こうした知的環境の危機における「出版業の社会的責任」を果たそうとする姿勢は見事だと感じいった次第です(それにくらべて・・・・・・)。

ともあれ、こうして年末を迎えることができること、うれしいかぎりです。来年は、少しは動きのある年であってほしいものです。いずれ、コロナ禍に見舞われた2020年は、歴史的な転換点として、さまざまな評価がくだされることでしょう。それらの論評を読む日が来ることを心待ちにしながらも、移動できない環境下、コツコツと読みつづける生活を楽しみたいと思います。

以下、今年の研究成果を記します。シンポジウムや学会での講演/発表予定がイベントごと蒸発してしまい、講演は12月の1回のみでした。公刊されたものは日本語のみで、来年公刊予定は現時点では英語のみというアンバランスな結果になってしまいました。


講演:
「モノに狂ってみる——『鶴見アジア学』のこれから」オンライントーク「バナナを片手に——著者が語る・著者と考えるモノ・ヒト・社会」、立教大学共生社会研究センター、2020年12月12日(オンライン)。

公刊された著作:
2020a,「岐路に立つノルウェーの捕鯨——ミンククジラ漁のいまとこれから」,岸上伸啓編,『捕鯨と反捕鯨のあいだに——世界の現場と政治・倫理的課題』,臨川書店,33-46頁.
2020b,「うちなる壁の向こうへ——鶴見良行の「脱米入亜」」,清水展・飯嶋秀治編,『自前の思想——時代と社会に応答するフィールドワーク』,京都大学学術出版会,179-212頁.
2020c,「理性か、性か? ナマコ食文化の存続をにぎる壁」,『海洋と生物』249: 322-327.
2020d,「ノルウェーにおける沿岸小型捕鯨の歴史と変容——ミンククジラ肉のサプライチェーンを中心として」,『北海道立北方民族博物館紀要』29: 1-30.

来年活字となる予定のもの:
2021a. “Tastes for blubber: Diversity and locality of whale meat foodways in Japan” Asian Education and Development Studies 10(1): 105-114. https://www.emerald.com/insight/content/doi/10.1108/AEDS-02-2020-0027/full/html
2021b. “A preliminary analysis of coastal minke whaling in Norway: Where did it come from, and where will it go?” Senri Ethnographical Studies 104, in print.
2021c. “The different currents of Japanese whaling: A case study of Baird’s Beaked Whale foodways in the Kanto and Tohoku Regions.” In  Ryan Tucker Jones and Angela Wanhalla eds. Across Species and Cultures: New Histories of Pacific Whaling, Honolulu: University of Hawai’i Press, in print.  


Posted by 赤嶺 淳 at 16:37Comments(0)研究成果

2020年03月25日

『マツタケ』についての対談記事がアップされました。

Hagazineというサイトに、2019年12月におこなった対談「フリーダムか、アナキーか──「潜在的コモンズ」の可能性」が掲載されました。調査では、通常、わたしがインタビューする側になるわけですが、今回は、インタビューされる側になりました。しかも、公開のシンポジウムでのことでした。不思議な感覚でした。

インタビューしてくれたのは、Hagazine編集人・辻陽介さんです。これまで酒の場以外ではお話する機会のなかった『マツタケ』の翻訳にまつわるエピソードを紹介する機会にもなりましたし、辻さんの質問に触発され、わたし自身、意外な気づきがありました。辻さん、ありがとうございました。
  


Posted by 赤嶺 淳 at 00:03Comments(0)研究成果

2019年12月16日

2019年に話したこと

 2019年、以下の発表/講演をいたしました。I)ワシントン条約関係のナマコもの、II)IIWC脱退をうけたクジラもの、III)『マツタケ』翻訳に関するものに大別できます。また、はじめて対談も経験しました。①と②、④、⑧は招聘をうけての講演でした。来年、どこまで活字化できるかが勝負です。

①「ワシントン条約第18回締約国会議におけるナマコ類の附属書II掲載提案と展望」、檜山海参フェスタ2019、@バリアフリーホテルあすなろ、2019年3月26日。
②Diversities of sea cucumber foodways in Asia: Sea cucumbers in Asian history and the contemporary world. Knowledge, Materiality, and Environment in Transpacific Histories of Oceanic Transformation, at Work, Humboldt University, Berlin, on April 11, 2019.
③「マツタケの摩訶不思議ーーアナ・チンの「マツタケ」研究に魅せられて」、環境政策史研究会、法政大学、2019年5月11日。
④Resumption of coastal whaling in Japan. The Resilience of Coastal Livelihoods, The Politics and Pitfalls of Maritime Governance, at Aberdeen University, on June 18, 2019.
⑤Coastal whaling revisited: Whale meat foodways in Japan and Norway. Association for the Study of Food and Society and the Agriculture, Food, and Human Values Society 2019 Conference, at The University of Alaska Anchorage, on June 28, 2019.
⑥Sensory and texture: How to appreciate whale meat foodways in Japan as a local dish. Sensory, Memory and Identity, Heritage and Politics of Culture. ICAS 11, at Kamerlingh Onnes B0.13, University of Leiden, on July 17, 2019.
⑦「提案45:イシナマコ類3種ーーEU, Kenya, Senegal, Seychelles & USA」GGTフォーラムCITES報告会、@航空会館、2019年9月27日。
⑧Sea cucumbers in Asian history: Call for sustainable use for the future. The 3rd Int’l Conference on Applied Marine Science & Fisheries Technologies (MSFT) 2019, at Grand Vilia Hotel, Langgul, Kei Kecil, Maluku, Indonesia, on Oct. 10, 2019.
Cishen and guangshen: Changing sea sucumber foodways in Southeast Asia. 2019 International Conference on Chinese Food Culture, Viet Nam National Institute of Culture and Arts Studies, Hanoi, Vietnam, on October 15, 2019.
⑩The status of matsutake production and trade in Japan IWEMM10 (The 10th International Workshop on Edible Mycorrhizal Mushrooms RAKO Hananoi Hotel, Suwa City, on October 21, 2019.
⑪Whale and orangutan: A possible link between whale oil and palm oil. Into a New Epoch: Capitalist Nature in the Plantationocene, at CSEAS, Kyoto University, October 25, 2019.
⑫対談 「アナ・チンの『マツタケ』をめぐって」× 辻陽介(Hagazine編集人)、シンポジウム「モア・ザン・ヒューマン」(第33回マルチスピーシーズ人類学研究会)、立教大学本館1203、2019年12月8日。
⑬「マツタケ熱にほだされてーー『マツタケ』(アナ・チン著)翻訳の舞台裏」日本菌学会関東支部第34回シンポジウム、@北里生命科学研究所、2019年12月14日。
⑭「『捕鯨の人類史的理解』を目指して」、J-ARC Net プロジェクト(Zoom/Skype)、2019年12月18日。  


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2019年12月16日

2019年に書いたもの

 2019年、以下のような文章を綴りました。今年は、4年越しの仕事となった『マツタケ』の翻訳を刊行することができました。そのかたわら、捕鯨問題群に関するものも書きました。とくに2015年度から2018年度まで参加した「グローバル時代の捕鯨文化に関する人類学的研究ーー伝統継承と反捕鯨運動の相克」(代表 岸上伸啓、15H02617)で担当したノルウェーの捕鯨についても、3本まとめることができました。
 『マツタケ』の翻訳も終わったので、つぎなるプロジェクト——油脂——にとりかかろうと思っているところです。

①「日本のIWC脱退通告 鯨食の多様性考える契機」,共同通信社(2019年1月〜2月配信記事)。
「近代捕鯨のゆくえーーあらたな鯨食文化の創発にむけて」,『国立民族学博物館調査報告』149: 55-82.
「多様性あってこその伝統食ーー戦前期の食生活調査にみる鯨食のゆたかさ」『日本オーラル・ヒストリー研究』15: 9-25.
④「うちなる壁の向こうへーー鶴見良行の「脱米入亜」」,印刷中。
⑤「石毛直道の食学」 国立民族学博物研編,『世界の食文化百科事典』,丸善雄松堂,印刷中。
⑥「岐路に立つノルウェーの捕鯨——ミンククジラ漁のいまとこれから」,岸上伸啓編,『捕鯨と環境倫理』,中央公論新社,印刷中。
「自然を愛でる権利」,『地域研究』20(1),印刷中.
⑧「待ちつづけてみよう——アナ・チン『マツタケ』解題」『たぐい』2,印刷中.
⑨「ノルウェーにおける沿岸小型捕鯨の歴史と変容——ミンククジラ肉のサプライチェーンを中心に」、投稿中.
⑩「鯨⾷の地域性と保守性——コールドチェーンが変えた鯨⾷⽂化」,佐藤洋一郎編,『和食文化を学ぶ人のために』,勉誠出版,印刷中。
Multiplicities of Japanese Whaling: A Case Study of Baird’s Beaked Whaling and its Foodways, Chiba Prefecture, eastern Japan. In Ryan Tucker Jones and Angela Wanhalla eds., New Histories of Pacific Whaling, RCC Perspectives Transformations in Environment and Society 2019/5, pp. 65-71.
⑫Beyond super whale and Reverse super whale: Diversities of whaling and whale meat foodways in Japan. in print.
⑬A Preliminary Analysis on Coastal Minke Whaling in Norway: Where it came from and where it will go? Senri Ethnographical Studies, in print.  


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2019年03月28日

2018年度の仕事

2018年度は、あっという間に過ぎた感じです。例年、年度ではなく年末に1年間の仕事を振りかえり、翌年の研究計画をたてるようにしてきましたが、2018/19年の年末年始は、原稿に追われていて、その作業さえもままならない忙しさでした。以下、書いたものと話したことをまとめます。

I 書いたもの
2018a 「ナマコの知」をもとめて――東アジアにおけるナマコ世界の多様性」,山田勇・赤嶺淳・平田昌弘編,『生態資源――モノ・場・ヒトを生かす世界』,昭和堂,288頁(19-54頁).
2018b 「瓦解を生きる術——マツタケに学ぶ柔靭さ」,『食品・食品添加物研究誌FFIジャーナル』223(3): 259-267.
2018c 「飽食化する食生活」国際開発学会編,『国際開発学事典』,丸善出版,72-73頁.
2018d 「ふたつの塩くじら」、『科学』12月号:1239-1241.
2019「近代捕鯨のゆくえ——あらたな鯨食文化の創発」,岸上伸啓編,『世界の捕鯨と捕鯨問題の現状』,国立民族学博物館調査報告,国立民族学博物館,印刷中.

2018年度に書いたもの、活字になったものは、この5本だけでした。これまでの研究人生で、もっとも生産の少ない年度のひとつのようです。ただ、マツタケという新らたな課題についての文章をまとめたり、『科学』の「和食」特集に鯨食について寄稿する機会を頂戴したりと、自分にとっての新しいテーマを、多少なりとも前に進めることができた、充実した1年だったと評価しています。また、来年度に刊行される「近代捕鯨のゆくえ」は、ノルウェーの近代捕鯨史をレビューするとともに、日本における南氷洋捕鯨の変遷をまとめた論考で、これまで書棚に寝かせていたHisory of Modern Whalingという大著に向きあう、よい機会となりました。個人的には捕鯨に賛成の立場をとっていますが、あくまでも「捕鯨はローカルな文化であり、日本のナショナルな文化ではない」との見地に立っています。この問題は、網野善彦さんが問いつづけてきた「日本とは何か」を問い直すことと同義でもあり、なかなかむずかしい問題を孕んでいます。まだまだ未熟な議論ですが、「ふたつの塩くじら」と「近代捕鯨のゆくえ」は、現時点での理解をもって、その難題に挑んだつもりです。

II しゃべったもの
a. "Inheriting Sea Cucumber and Shark Fin Foodways in the Age of Environmentalism." At the Sun Yat Sen University Second International Conference on Food and Culture: People, Ecology and Food, Panel 16: Unforgettable Chinese Food. Martin Hall, Ground floor, SYSU, Guangzhou, China, 2018/04/20.
b. "Multiplicities of Japanese Whaling:A Case Study of Baird’s Beaked Whaling and its Foodways." At the New Histories of Pacific Whaling: Cross-Cultural and Environmental Encounters, Session 4: Oil, Wax, and Meat. East-West Center, The University of Hawai’i – Mānoa, Honolulu, HI, USA, 2018/06/29.
c. 「高度経済成長期の食生活の変化を聞き書くーー食生活誌学のこころみ」,JOHA16シンポジウム「食に聴く・食を書く――食の媒介者たちをめぐる歴史と社会,第16回日本オーラルヒストリー学会大会,東京家政大学,2018年9月2日.
d. "Minke Whale Meat Supply Chain in Contemporary Norway." At the Whaling Activities and Issues in the Contemporary World, National Museum of Ethnology, Osaka, 2018/12/01.
「ノルウェーにおけるミンククジラ漁と鯨⾁のサプライチェーン」北海道大学低温科学研究所グリーンランド集会,北海道大学低温科学研究所,2018年12月19日.

2018年度で特筆すべきは、bとdでしょうか。bは、レイチェル・カーソン財団から助成をうけて開催された「太平洋における捕鯨史」について議論する学会でした。ロシア史やニュージーランド史の研究者をはじめとした歴史学研究者が中心になって組織したもので、太平洋捕鯨を北と南から見つめてみようというものでした。興味深かったのは、米国人研究者が、米国による太平洋の捕鯨史を、あたかも自分たちの庭先での話といった感じで報告することでした。このことの意義は、米国の太平洋政策の問題としても、考えてみる価値ありそうです。

あらかじめ原稿を提出し、当日は、その原稿にもとづいたディスカッションというスタイルは、わたしにとって、初めてのことであり、カンファレンスの手法を学ぶ、よい機会となりました。また、この学会に参加したことから、太平洋史、日本をふくむアジア海域史に関心をもつ研究者とのネットワークが広がり、来月ベルリンで開催される学会に招待されることになりました。可能なかぎり、貪欲に挑戦することの大切さを実感しています。

dは、この4年間、お世話になった科研費による研究プロジェクト「グローバル化時代の捕鯨文化に関する人類学的研究--伝統継承と反捕鯨運動の相克」(代表 岸上伸啓)の発表会でした。地域研究者を自称する以上、ノルウェー語もできないわたしがノルウェーについて発表するのは、おこがましいかぎりですが、それでも現地でのフィールドワークと各種統計を利用してわかったことを整理して、報告いたしました。今後の問題は、この4年間であきらかになったことを、いかにノルウェー史の文脈で解釈するか、ということになります。ですが、このことはノルウェー語のできないわたしには、困難でしょう。その分、ノルウェーの事例を世界の捕鯨や日本の捕鯨との比較で解釈するしかないと考えています。その意味では、地域研究ではなく、「捕鯨問題」研究の一環としての仕事に位置づけています。

来年度も、すでに4つの国際学会での発表が決まっています。これまでやってきたことを相互につなぎながら、さまざまな背景をもつ人びとに訴えていくとともに、少しずつ、活字化していきたいと考えています。










  


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2017年12月29日

2017年、こんな文章を発表しました。

 2017年は、以下の文章を公刊しました。①は2冊目の単著となりました。②は3巻本で出た東南アジア地域研究の入門書の第1巻に寄稿したものです。④と⑤は書評です。⑥から⑨はエッセイです。7年ぶりに単著を出すことができたとはいえ、それ以外はあまり綴れない1年でもありました。それでも、いま、はまっている「キノコねた」について⑨を発表できたことは励みになりました。来年は、「もっとキノコねたで迫らねば」と考えています。

①『鯨を生きる――鯨人の個人史・鯨食の同時代史』,歴史文化ライブラリー445,吉川弘文館,283頁.978-4642058452
②「終焉なきフロンティアとしての漁業」,山本信人監修,井上真編,『東南アジア地域研究入門1 環境』,慶応義塾大学出版会,368頁,133-151頁.
③“The Role of Sama/Bajaus in Sea Cucumber Trades in the Sulu Sultanate Economy: Towards a Reconstruction of Dynamic Maritime History in Southeast Asia,” Proceedings of the International Conference on Bajau-Sama’ Diaspora & Maritime SoutheastAsian Cultures ICONBAS-MASEC 2016 19–23 April 2016 at the Tun Sakaran Museum, Semporna, Sabah, Malaysia., At Kota Kinabalu, Sabah, Malaysia, Sabah Museum Monograph 13: 151-163.
④「カタジーナ・チフィエルトカ+安原美帆著『秘められた和食史』」,『Vesta』106: 70-71.
⑤「秋道智彌著『サンゴ礁に生きる海人――琉球の海の生態民族学』」,『沖縄タイムス』,朝刊,2017年2月18日.
⑥「見えざる鯨から問う」,『本郷』129号: 17-19.
⑦「みずからの歩みをつづる――沿岸捕鯨の歴史を見なおす試み」,『石巻学』3: 53-55.
⑧「プロが支える鯨食文化」,『Vesta』108: 34-37.
⑨「キノコに学ぶサバイバル術——不確実な時代を生きる」『ビオストーリー』28: 72-73.
  


Posted by 赤嶺 淳 at 21:04Comments(0)研究成果

2017年12月29日

2017年、こんな講演をしました。

 今年は、以下のような講演をしました。大きくわけると、1)聞き書きの方法論、2)捕鯨問題、3)ナマコ類・サメ類を中心とした水産資源の利用と中国料理の歴史、の3つです。また、いま、夢中になっているマツタケについても、兵庫県の高校生を対象に今年の調査結果をお話しする機会を得ました。
①「百姓どころでね。銭んこ、とらなきゃ——南氷洋捕鯨出稼ぎ者の個人史」,第4回持続可能な農業・農村を考えるセミナー @カレッジプラザ,2017年3月3日.
②”Whale oil had gone: Changes of whaling and whale meat foodways in Japan,” Navigating Food Studies in East and Southeast Asia Workshop, Tembusu College, National University of Singapore, March 16, 2017.
③「ワシントン条約における水産資源の管理動向とナマコ漁への影響」,第8回能登なまこ供養大漁祈願祭, 石川県漁業協同組合七尾支所,2017年3月26日.
④「カマイルカに学ぶ」,ドルフィンウォッチングとジオパーク〜ふるさとの海 むつ湾のイルカから地域と世界をみる,むつ市海と森ふれあい体験館,2017年5月28日.
⑤「聞き書きの魅力——綴方教育の推進と地域連携の可能性」『高浜市誌』編纂プロジェクト関連講演会,高浜市やきものの里かわら美術館,2017年6月3日.
⑥「北海道における白干の生産と流通——オホーツク地区を事例として」,日中食文化研究会,練馬区民・産業プラザ,2017年6月10日.
⑦「気仙沼におけるサメ産業の復興——反フカヒレ運動下におけるサメ食文化の促進」,日中食文化研究会,練馬区民・産業プラザ,2017年9月9日.
⑧「ナマコ食文化の歴史と未来——「持続可能な利用」への課題」,日中食文化研究会,六明舎,2017年10月14日.
⑨「ナマコ食文化の歴史と未来——「持続可能な利用」をめざして」,中華の魅力 乾貨の秘密〜アワビ・フカヒレ・干ナマコ〜プログラムA-1,第4回全日本・食サミット,東京誠心調理師専門学校,2017年10月29日.
⑩”From material to meat: Whaling and whale meat foodways in contemporary Japan,” Room 110, Buckley Center, University of Portland, Portland, OR, USA. Nov. 2, 2017.
⑪「不安定(precarious)で不確実(indeterminate)な社会を生きる——マツタケが教えてくれること」人類学への招待——北高れくちゅぁ2017(3),兵庫県立伊丹北高等学校,2017年11月11日.

また、つぎの研究発表をしました。
"Call for Responsible Consumption of Sea Cucumbers for Conserving Cultural Heritage in Asia" at the "Chinese Overseas: Global and Local Dynamics" the 11th Regional Conference of the International Society for the Study of Overseas Chinese, Nagasaki University, November 19, 2017.
  


Posted by 赤嶺 淳 at 20:45Comments(0)研究成果

2017年09月07日

捕鯨に関するシンポジウムと講演会をおこないます(9月27日)。



一橋大学大学院社会学研究科では、映画監督の佐々木芽生さんの講演会と捕鯨に関するシンポジウムを開催します。賛成/反対の対立を越え、捕鯨のなにが、どう問題なのかを多様な視点から議論したいと考えています。参加は自由です。kujira@soc.hit-u.ac.jpまでお名前、所属、連絡先を明記し、登録ください。  


Posted by 赤嶺 淳 at 20:50

2017年02月21日

『東南アジア地域研究入門』が刊行されました。



 慶応義塾大学出版会から3巻本のシリーズとして『東南アジア地域研究入門』が刊行されました。わたしは、第1巻『環境』の6章に「終焉なきフロンティアとしての漁業」という原稿を寄稿する機会を得ました。
 
 フロンティア論は、わたしが日本学術振興会の特別研究員をしていた90年代後半に京都大学の東南アジア研究センター(現東南アジア地域研究研究所)を中心に、東南アジアを理解するキー・タームとして議論されていたものです。東南アジアでは、生態資源や就業機会をもとめて、辺境部や都市へ人口移動が頻繁に繰り返される現象に着目した枠組みです。近年、あまり触れられることのない「フロンティア論」ですが、グローバル時代に常態化した人口とモノ(資源)の移動を念頭に、あらためてその有効性を再検討してみようと考えた訳です。そのため、今回は、1970年代から現在までに発表された東南アジアの漁業に関する主要著作を「フロンティア」という観点からレビューを試みました。

 シリーズの監修者は山本信人さん、第1巻の編者は井上真さんです。共著者は、柳澤雅之さん、古澤拓郎さん、小泉都さん、横山智さん、岡本郁子さん、佐藤仁さん、藤田渡さん、笹岡正俊さん、生方史数さん、内藤大輔さん、百村帝彦さん、原田一宏さん、寺内大左さん、山本博之さんのみなさんです。ほとんどが同世代ですが、なかにはわたしよりも若い研究者もいます。

 わたしが大学院生だったころ、弘文堂から『講座 東南アジア学』全11巻が刊行されました。あの頃はバブル期だったということもあり、「出版も元気だったなぁ〜」とつくづく感じさせられます。否、「東南アジア研究自体が元気だった」とも言えるでしょう。わたしが、『講座 東南アジア学』で学んだように、今回の3巻本シリーズで「東南アジアについて学んだ」という世代がつづくことを願っています。  


Posted by 赤嶺 淳 at 17:46Comments(0)研究成果

2017年02月03日

『鯨を生きる』を出版します。

 ほぼ3年越しのプロジェクトとなった捕鯨関係者の個人史をまとめた本を、2月20日に出版することになりました。副題にある「鯨人」(くじらびと)とは、インタビューの最中に聞いたことばで、「鯨とともに生きてきた人」を意味しています。本書では、砲手、解剖、母船の大工、鯨肉専門店の店主、鯨肉入り魚肉ソーセージを製造していた方、鯨料理専門店女将の6名の鯨人の人生をふりかえりながら、近代捕鯨の歴史を叙述しました。
 捕鯨と聞けば、「肉」の消費ばかりが脚光をあび、鯨食が国民文化なのかどうかの議論が耳目を集めています。本書では、商業捕鯨時代の重要な商品だった鯨油製マーガリンと、鯨肉入り魚肉ソーセージに着目し、そうした商品が登場し、消えていった時代背景について考察してみました。キーワードは、高度経済成長、なかでも「電気冷蔵庫」の登場です。
 ほとんどの方にとって、鯨肉など食べたこともなければ、捕鯨は、「賛成」でも、「反対」でもなく、「どうでもよい」ことがらなのかもしれません。「捕鯨が日本の文化だなんて・・・・・・」当惑する方もいらっしゃるでしょう。わたしは、なにも捕鯨や鯨食文化が、日本の国民文化だと主張したいわけではありません。しかし、日本には捕鯨の歴史を継承してきた地域があることも事実です。そうした地域には、捕鯨と鯨食文化に誇りをもった人びとがたくさんいます。今回、インタビューした鯨人も、同様です。
 このことを、どのように理解したらよいのでしょうか? そのひとつの方策が、捕鯨業の栄枯盛衰から日本の近代史ーーわたしたちの生活様式の変遷ーーを眺めてみることかもしれません。そのことにより、いわゆる「捕鯨問題」群を、多少はことなる文脈に整理しなおすことができるのではないか、と考えるからです。そうした歴史をふまえたうえで、捕鯨の現在と将来について考えていきたい、というのが本書執筆の動機です。

  


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2016年12月31日

2016年、こんなことを講演しました。

 今年は、つぎのような口頭発表と講演をしました。これまであたためてきたクジラやサメに関するものもあれば、近年、関心をもちはじめた「マツタケ」についてのものもあります。⑧〜⑩は、食関係の学会です。日本だけではなく、マレーシアでも食研究が盛んになりつつあるとのこと。来年度以降も、さまざまな機会を通じ、アジアの食研究者とのネットワークづくりにも精をだしたいと考えています。

①“The Role of Samas/Bajaus in Sea Cucumber Trades in the Sulu Sultanate Economy: Towards a Reconstruction of Dynamic Maritime History in Southeast Asia,” International Conference on Bajau-Sama’ Diaspora & Maritime Southeast Asian Cultures (ICONBAS-MASEC 2016), Tun Sakaran Museum, Semporna, Sabah, 22 April 2016.
②「グレーゾーンを生きる——マレーシアのアブラヤシ園から考える」,一橋大学社会学部連続市民講座2016「周縁から考えるーー多元的世界への招待」②,@一橋大学兼松講堂,2016年5月21日.
③「ベトナマコスの遺産——鶴見アジア学の今日的意義と課題」,「応答の人類学」第26回研究会,@愛知県立大学サテライトキャンパス,2016年5月27日.
④「フロンティア論再考——東南アジア研究とグローバル・スタディーズの接合をめざして(「知命」をむかえるにあたって・・・・・・)」,第8回東南アジアの海とひと研究会,@東洋大学, 2016年6月18日.
⑤「日本の「捕鯨問題」の分析視角——ノルウェーの事例を参考に」,2016年度アイスランド学会総会,@一橋大学佐野書院, 2016年6月24日.
⑥「イスラーム教徒(ムスリム)の日常生活——わたしの東南アジア体験から」,@豊後大野市立緒方中学校,2016年7月6日.
⑦“Matsutake in Japan: Foodways and Economy,” @LUKE (Luonnonvarakeskus=Natural Rsources Institute Finland), Parkano, Finland., Aug. 26, 2016.
⑧「気仙沼におけるサメ産業の復興——反フカヒレ運動下におけるサメ食文化促進」,国際シンポジウム「東アジアの食文化交流」,@慶応義塾大学,2016年10月2日.
⑨“Promoting Sustainable Shark Foodways in Japan against Global anti-Shark Fin Campaign,” Food & Society 2016, Hotel Bangi Putrajaya, Nov. 20, 2016.
⑩“Beyond the “Super Shark” Myth: Promoting Sustainable Shark Foodways in Japan and Asia,” Exchange and Dynamism of Food Culture in Asia: Past, Present and Future, The 6th Conference on Foodways in Asia, Epoch Ritsumei, Kusatsu City, Dec. 4, 2016.
⑪「モノ研究の魅力——ナマコとクジラ、ヤシとバナナから見える世界」,@公益財団法人国際文化フォーラム(TJF)会議室,2016 年12 月17 日.

 ⑪は、大学時代の友人が企画してくれたものでした。わたしが研究手法とする「『モノ研究』って、いったい、何なの?」「フィールドワークと旅行は何が違うの?」「なぜ、手書きのメモ(フィールドノート)にこだわるの?」といった疑問に答えるための講演でした。わたしにとって、「モノ研究」と「フィールドワーク」は不可分のセットで、フィールドワークにメモ(フィールドノート)はつきものです。自分にとって当たり前のことを、あらためて真顔で訊かれたわけですが、その回答は簡単なようでいて、結構、考えさせられました。この問題は、いずれ、文章にしたいと思っています。
 来年は、あらたに「マツタケ」をはじめとしたキノコの問題にも取り組みたいと思っています。あらたな課題を歩きつつ、自分の領域を拡げていきたいと考えています。
  


Posted by 赤嶺 淳 at 17:33Comments(0)研究成果

2016年12月31日

2016年、こんなの書きました。

 今年(2016年)も、あとちょっとで終わりです。この1年間に、こんなものを書きました。
① “Shark Town: Kesennuma’s Taste for Shark and the Challenge of a Tsunami,” in Lum, Casey Man Kong and Marc de Ferriere le Vayer eds., Urban Foodways and Communication: Ethnographic Studies in Intangible Cultural Food Heritages around the World, Lanham: Rowman and Littlefield, 238pp., pp. 71-85.
②「ナマコとともに──モノ研究とヒト研究の共鳴をめざして」,秋道智彌・赤坂憲雄編,『人間の営みを探る』,フィールド科学の入口,玉川大学出版部,全224頁,114-148頁.
③「ケーススタディ・ナマコ」,中野秀樹・高橋紀夫編,『魚たちとワシントン条約──マグロ・サメからナマコ・深海サンゴまで』,水産総合研究センター叢書,文一総合出版,全224頁,187-199頁.
④「食足りて、○○を知る」,シノドス,国際,http://synodos.jp/international/17770,2016年8月25日.

 で、近日中に以下が出ます。
⑤『鯨を生きる──鯨人の個人史・鯨食の同時代史』,吉川歴史文化ライブラリー,吉川弘文館.
⑥「終焉なきフロンティアとしての漁業」,井上真編,『東南アジア地域研究3 環境』,慶応大学出版会.
⑦「マレー世界のなかのフィリピン──スペインがスルー諸島にナマコをもとめた理由」,大野拓司・鈴木伸隆・日下渉編,『フィリピンを知る64章』,明石書店.
⑧「「おきひゃく」の遺産と未来」,内藤直樹・亀井伸孝編,『PBL教育のアートとデザイン──フィールドワークへの誘い』, ナカニシヤ出版.
⑨ “Living in the gray zone: Towards constructing a holistic integrity of human-nature relations,” Graduate School of Social Sciences, Hitotsubashi Univ..
 
 本数で言えば、少なかった1年でしたが、7年ぶりの単著となる⑤の執筆に歩きまわった年でもありました。その意味では、充実した1年でした。本書は捕鯨関係者の個人史の採録・編集にはじまり、明治以降の近代捕鯨の歴史を俯瞰するという企画です。捕鯨については、前作の『ナマコ』を書く過程で、1970年代以降の環境主義の時代を振りかえる際に、きちんと勉強してみたいと感じた課題でした。ナマコとクジラでは、その大きさは当然のこと、文化的・経済的な位置づけもことなれば、政治的な関心もことなっています。
 捕鯨といえば調査捕鯨ばかりが脚光を浴びますが、本書では、「捕って売る」という商業捕鯨(の時代)に焦点をあて、「わたしたちが、いかにクジラを消費してきたのか」、その歴史を、高度経済成長という、わたしたちの生活様式の変遷とからめて考察してみました。便利で快適となったわたしたちの生活の背景で、どのような社会の変化があったのでしょうか?
 書店にならぶのは、2017年2月末を予定しています。いわゆる「捕鯨問題」は、袋小路にはいりこんでいるように見受けられます。それは、政府だけの問題ではなく、わたしたちのおおくが無関心であることにも起因しているように感じています。拙著への批判はもちろんのこと、ひとりでもおおくの人びとが「捕鯨問題」について関心をもってくれ、すこしでも賛否の議論が深まってくれれば、と考えています。  


Posted by 赤嶺 淳 at 17:12Comments(0)研究成果

2016年06月22日

論文が公刊されました

最近、論文が2つ、公刊されました。

1.「ナマコとともに モノ研究とヒト研究の共鳴をめざして」,秋道智彌・赤坂憲雄編,『フィールド価格の入口 人間の営みを探る』,玉川大学出版会,114-148頁。[全220頁,ISBN978-4-472-18205-1]

2.“Shark Town: Kesennuma’s Taste for Shark and the Challenge of a Tsunami,” in Lum, Casey Man Kong and Marc de Ferriere le Vayer eds., Urban Foodways and Communication: Ethnographic Studies in Intangible Cultural Food Heritages around the World, Lanham: Rowman and Littlefield, pp. 71-85. [238pp., ISBN978-1-4422-6642-1]



1は、さまざまな学問分野のフィールドワークについて紹介するシリーズ本の1冊で、この号は、人類学・民族学・地域研究・環境倫理学のフィールドワークが紹介されています。わたしは、若い読者(?)を念頭に、これまで試行錯誤してきたモノ研究の方法論について自省的にまとめてみました。はじめてフィールドワークにでて、はやくも25年がたちました。この間の経験をつづってみました。ほかにも小長谷有紀・秋山知宏・安渓遊地・桑子敏雄・白川千尋・池口明子・蒋宏偉さんたちが寄稿されています。



2は、食文化を無形文化遺産として位置づけようとする試みです。わたしは、近年、関心を寄せてるサメ問題についての短い文章を寄稿しました。フカヒレだけが問題視されていますが、サメ肉も消費しているわけで、その動向を町おこしの観点から論じたものです。「サメは絶滅の危機に瀕している」、「サメを食べるのは野蛮だ」という主張を耳にします。これは、70年代以降、捕鯨を批判する際に繰り返し登場するものです。鯨類は85種、サメ類は500種ほどが知られており、そのすべてが絶滅の危機に瀕しているわけではないことは、ちょっと考えたら理解できるというものです。本書は12章からなっており、編者2名のほか、ほかにもPaula Arvela, Chi-Hoon Kim, Aïda Kanafani-Zahar, Catherine Simone Gallin, Ivona Jovanovic, Andiela Vitic-Cetkovic, Charles A. Baker-Clark, Scott Barton, José Antonio Vázquez-Medina, Miriam Bertrán, F. Xavier Medina, Sonia Massari, Elena Carbone, Salem Paulos, Isabelle Bianquis, Isabella Borissova, Wendy Leeds-Hurwitzさんらが寄稿されています。  


Posted by 赤嶺 淳 at 17:04Comments(0)研究成果

2015年12月31日

今年、こんな発表をしました。

今年は、以下のような口頭発表をしました。

① 「2014年度混獲生物調査@シンガポール・マレーシア報告」@2014年度国内体制構築に係る混獲生物検討協議会,水産庁漁政部第3会議室(02/02)
② 「サメ類に関する国際動向等に関する情報交換会@気仙沼漁業協同組合会議室(02/14)
③ 「サメ(とクジラ)を食べるーー生物多様性保全と文化多様性保全の課題」@API CW 京都(04/19)
④ 「ナマコ類利用の多様化と課題ーーマレーシアの事例から」@「アジア・オセアニアにおける海域ネットワーク社会の人類史的研究――資源利用と物質文化の時空間比較」, 国立民族学博物館(06/21)
⑤ 「捕鯨+ノルウェー調査報告と今後の課題」@「グローバル化時代の捕鯨文化に関する人類学的研究-伝統継承と反捕鯨運動の相克」(15H02617), 国立民族学博物館(06/28)
⑥ 「ナマコ研究から鯨研究へ——高度経済成長期のくらしの変化から環境問題をとらえる」@第2回持続可能な農業・農村を考えるセミナー(07/27)
⑦ “From Sharkfin to Original Shark Dishes: Reconstruction from Tsunami and Promotion of Food Tourism in Kesennuma, Northeastern Japan,” 2015 Int’l Conference on Chinese Dietary Culture, Tours, France, Oct. 14, 2015.
⑧ “Two Tales of Sea Cucumber Trades from Sama/Bajau in Southeast Asia: Towards Reconstruction of Dynamic Maritime History in Asia,” 3rd APOCC, Korea Chamber of Commerce & Industry, Nov. 6, 2015.

以上です。  


Posted by 赤嶺 淳 at 21:30Comments(0)

2015年12月31日

今年、こんなもの、書きました。

今年は、以下のものを公刊しました。

I 論文:
①赤嶺淳,2015a,「ナマコ食文化の多様性──マナマコ利用の持続可能な利用のために(2)」,『食品・食品添加物研究誌FFIジャーナル』220(4): 336-346.
②赤嶺淳,2015b,「ナマコ食文化の多様性──マナマコ利用の持続可能な利用のために(1)」,『食品・食品添加物研究誌FFIジャーナル』220(3): 263-271.

II プロシーディングズ
③Akamine, J. 2015c, “Management Problems with Commercially Exploited Aquatic Species in CITES: A Case Study of Seahorses and Sea Cucumbers,” in Jeng Ming-Shiou ed. 2014 International Symposium on Pacific Precious Corals Final Report, pp.259-271, Taipei: Taiwan Jewelry Industry Association.
④Akamine, J. 2015d, “The Potential of the Sustainable Use of Sea Cucumbers in Malaysia: Toward Inclusive Dialogue for Sustainable Sea Cucumber Conservation in Malaysia,” 13th API Regional Workshop in Hiroshima, Nov. 9-13, 2014, pp. 162-180, Tokyo: The Nippon Foundation.

III その他
⑤赤嶺淳,2015e,「ナマコ・バブルははじけるか? 遼東海域のナマコ食文化と刺参信仰」,『月刊養殖ビジネス』2015年8月号,3-6頁.
⑥赤嶺淳,2015f,「歩きながら考える・考えながら歩きつづける――鶴見良行のナマコ学を継ぐ」,『αシノドス』,3月1日号,1-10頁.
⑦赤嶺淳、2015g「変貌するシンガポールとマレーシア(サバ州)におけるフカヒレ事情――2014年度の混獲生物調査から」, 『GGTニュースレター』102: 1-3.


  


Posted by 赤嶺 淳 at 21:27Comments(0)