鯨食の地域性と保守性

赤嶺 淳

2022年02月02日 12:23




佐藤洋一郎さんが編集した『知っておきたい和食の文化』(勉誠出版,396頁)に「鯨食の地域性と保守性——コールドチェーンが変えた鯨食文化」(95-128頁)を執筆しました。コロナ騒動がおきる直前の2019年12月に脱稿したものです。コロナ騒動では、2020年の春に冷凍食品やインスタント食品がスーパーの棚から消えたし、現在もサプライチェーンが乱れていて、不足する商品群もあります。ですが、食品については、比較的安定して供給されていることは、スーパーなり、商社なり、物流会社なりの努力のたまものだと思います。

本書が大学で教科書として利用されることを想定して企画されたこともあり、以下のような「まとめ」をつけました。社会の変化の功罪を議論するのは無意味なことですが、ある事象を(一見関係なさそうな)ほかの事象群と関連づけて多角的に検討する視座は不可欠なことだと考えています。

量的にも質的にも鯨食を「日本の伝統」と考えるには無理があるかもしれません。しかし、日本各地には鯨食を継承してきた地域があるのは事実です(鯨食の偏在性と保守性)。冷蔵庫とスーパーに代表されるコールドチェーンの浸透によって、鯨食文化はふたつの意味で変質しました。(1)冷蔵庫がなかった時代、鯨肉入りの魚肉ハム・ソーセージが人気を博したことが、その後に到来した畜肉消費時代への橋渡しをしました。(2)スーパー(マーケット)の躍進により、「接ぎ」を見極める目利きがいなくなった結果、鯨肉が「安かろう、悪かろう」の代名詞と化し、やがて豚肉や牛肉にとってかわられることになりました。このように食生活の変化の背景には、さまざまな社会の変化が存在しています。こうした変化を見通せるような複眼的レンズを獲得しましょう。

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