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2020年12月28日

不自由ながらも、ささやかな充実感も——2020年をふりかえって

今年は、この道にはいって(=研究を志し、修士課程に入学して)30年目の節目でした。近年、ようやく自分なりのスタイルを築け、いい感じで仕事をまわせていただけに、はじめて経験することに狼狽させられつづけた1年でした。

出張がのきなみキャンセルとなった3月初旬から4月初旬にかけては、これまで培ってきた「やり方」を修正せざるをえない現実から逃避したい一心の毎日でした。それでも4月にはいり、大学の方針として「連休明けからオンライン講義」が提示されたころから、気持ちの転換にスイッチがはいったように思います。

勤務校のみならず、大学の対応をめぐっては、さまざまな批判があることは承知しています。それでも、ベストな講義を提供するべく、最大限の努力をしたことも事実です。それは、プロとしての矜持でもありますし、目の前のことに全力投球しないと、どこか自分が崩れそうな恐怖感を感じていたからでもありました。また、4月から大学生となった長男が手持ち無沙汰にしているのを不憫に感じていたからでもあります。よその家庭のお子さんではありますが、「いよいよこれから」というタイミングで夢をくじかれかねない学生たちに、自分なりのベストな教育を提供したい、と考えたわけです。

もちろん、反省も失敗も多々あります。それでも、こうしてふりかえってみると、よく勉強した1年でもありました。さいわい本は山ほどありますし、なんといっても電子媒体のありがたさを痛感させられました。出版社によってちがいはあるとはいえ、6月〜7月末まで無料でコンテンツを公開していた欧米の大手出版社の寛容さにすくわれました。日常的には利益第一の姿勢があきらかで、辟易するほど高価な価格をつけているものですが、こうした知的環境の危機における「出版業の社会的責任」を果たそうとする姿勢は見事だと感じいった次第です(それにくらべて・・・・・・)。

ともあれ、こうして年末を迎えることができること、うれしいかぎりです。来年は、少しは動きのある年であってほしいものです。いずれ、コロナ禍に見舞われた2020年は、歴史的な転換点として、さまざまな評価がくだされることでしょう。それらの論評を読む日が来ることを心待ちにしながらも、移動できない環境下、コツコツと読みつづける生活を楽しみたいと思います。

以下、今年の研究成果を記します。シンポジウムや学会での講演/発表予定がイベントごと蒸発してしまい、講演は12月の1回のみでした。公刊されたものは日本語のみで、来年公刊予定は現時点では英語のみというアンバランスな結果になってしまいました。


講演:
「モノに狂ってみる——『鶴見アジア学』のこれから」オンライントーク「バナナを片手に——著者が語る・著者と考えるモノ・ヒト・社会」、立教大学共生社会研究センター、2020年12月12日(オンライン)。

公刊された著作:
2020a,「岐路に立つノルウェーの捕鯨——ミンククジラ漁のいまとこれから」,岸上伸啓編,『捕鯨と反捕鯨のあいだに——世界の現場と政治・倫理的課題』,臨川書店,33-46頁.
2020b,「うちなる壁の向こうへ——鶴見良行の「脱米入亜」」,清水展・飯嶋秀治編,『自前の思想——時代と社会に応答するフィールドワーク』,京都大学学術出版会,179-212頁.
2020c,「理性か、性か? ナマコ食文化の存続をにぎる壁」,『海洋と生物』249: 322-327.
2020d,「ノルウェーにおける沿岸小型捕鯨の歴史と変容——ミンククジラ肉のサプライチェーンを中心として」,『北海道立北方民族博物館紀要』29: 1-30.

来年活字となる予定のもの:
2021a. “Tastes for blubber: Diversity and locality of whale meat foodways in Japan” Asian Education and Development Studies 10(1): 105-114. https://www.emerald.com/insight/content/doi/10.1108/AEDS-02-2020-0027/full/html
2021b. “A preliminary analysis of coastal minke whaling in Norway: Where did it come from, and where will it go?” Senri Ethnographical Studies 104, in print.
2021c. “The different currents of Japanese whaling: A case study of Baird’s Beaked Whale foodways in the Kanto and Tohoku Regions.” In  Ryan Tucker Jones and Angela Wanhalla eds. Across Species and Cultures: New Histories of Pacific Whaling, Honolulu: University of Hawai’i Press, in print.


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Posted by 赤嶺 淳 at 16:37│Comments(0)研究成果
 
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