2019年03月28日
2018年度の仕事
2018年度は、あっという間に過ぎた感じです。例年、年度ではなく年末に1年間の仕事を振りかえり、翌年の研究計画をたてるようにしてきましたが、2018/19年の年末年始は、原稿に追われていて、その作業さえもままならない忙しさでした。以下、書いたものと話したことをまとめます。
I 書いたもの
2018a 「ナマコの知」をもとめて――東アジアにおけるナマコ世界の多様性」,山田勇・赤嶺淳・平田昌弘編,『生態資源――モノ・場・ヒトを生かす世界』,昭和堂,288頁(19-54頁).
2018b 「瓦解を生きる術——マツタケに学ぶ柔靭さ」,『食品・食品添加物研究誌FFIジャーナル』223(3): 259-267.
2018c 「飽食化する食生活」国際開発学会編,『国際開発学事典』,丸善出版,72-73頁.
2018d 「ふたつの塩くじら」、『科学』12月号:1239-1241.
2019「近代捕鯨のゆくえ——あらたな鯨食文化の創発」,岸上伸啓編,『世界の捕鯨と捕鯨問題の現状』,国立民族学博物館調査報告,国立民族学博物館,印刷中.
2018年度に書いたもの、活字になったものは、この5本だけでした。これまでの研究人生で、もっとも生産の少ない年度のひとつのようです。ただ、マツタケという新らたな課題についての文章をまとめたり、『科学』の「和食」特集に鯨食について寄稿する機会を頂戴したりと、自分にとっての新しいテーマを、多少なりとも前に進めることができた、充実した1年だったと評価しています。また、来年度に刊行される「近代捕鯨のゆくえ」は、ノルウェーの近代捕鯨史をレビューするとともに、日本における南氷洋捕鯨の変遷をまとめた論考で、これまで書棚に寝かせていたHisory of Modern Whalingという大著に向きあう、よい機会となりました。個人的には捕鯨に賛成の立場をとっていますが、あくまでも「捕鯨はローカルな文化であり、日本のナショナルな文化ではない」との見地に立っています。この問題は、網野善彦さんが問いつづけてきた「日本とは何か」を問い直すことと同義でもあり、なかなかむずかしい問題を孕んでいます。まだまだ未熟な議論ですが、「ふたつの塩くじら」と「近代捕鯨のゆくえ」は、現時点での理解をもって、その難題に挑んだつもりです。
II しゃべったもの
a. "Inheriting Sea Cucumber and Shark Fin Foodways in the Age of Environmentalism." At the Sun Yat Sen University Second International Conference on Food and Culture: People, Ecology and Food, Panel 16: Unforgettable Chinese Food. Martin Hall, Ground floor, SYSU, Guangzhou, China, 2018/04/20.
b. "Multiplicities of Japanese Whaling:A Case Study of Baird’s Beaked Whaling and its Foodways." At the New Histories of Pacific Whaling: Cross-Cultural and Environmental Encounters, Session 4: Oil, Wax, and Meat. East-West Center, The University of Hawai’i – Mānoa, Honolulu, HI, USA, 2018/06/29.
c. 「高度経済成長期の食生活の変化を聞き書くーー食生活誌学のこころみ」,JOHA16シンポジウム「食に聴く・食を書く――食の媒介者たちをめぐる歴史と社会,第16回日本オーラルヒストリー学会大会,東京家政大学,2018年9月2日.
d. "Minke Whale Meat Supply Chain in Contemporary Norway." At the Whaling Activities and Issues in the Contemporary World, National Museum of Ethnology, Osaka, 2018/12/01.
「ノルウェーにおけるミンククジラ漁と鯨⾁のサプライチェーン」北海道大学低温科学研究所グリーンランド集会,北海道大学低温科学研究所,2018年12月19日.
2018年度で特筆すべきは、bとdでしょうか。bは、レイチェル・カーソン財団から助成をうけて開催された「太平洋における捕鯨史」について議論する学会でした。ロシア史やニュージーランド史の研究者をはじめとした歴史学研究者が中心になって組織したもので、太平洋捕鯨を北と南から見つめてみようというものでした。興味深かったのは、米国人研究者が、米国による太平洋の捕鯨史を、あたかも自分たちの庭先での話といった感じで報告することでした。このことの意義は、米国の太平洋政策の問題としても、考えてみる価値ありそうです。
あらかじめ原稿を提出し、当日は、その原稿にもとづいたディスカッションというスタイルは、わたしにとって、初めてのことであり、カンファレンスの手法を学ぶ、よい機会となりました。また、この学会に参加したことから、太平洋史、日本をふくむアジア海域史に関心をもつ研究者とのネットワークが広がり、来月ベルリンで開催される学会に招待されることになりました。可能なかぎり、貪欲に挑戦することの大切さを実感しています。
dは、この4年間、お世話になった科研費による研究プロジェクト「グローバル化時代の捕鯨文化に関する人類学的研究--伝統継承と反捕鯨運動の相克」(代表 岸上伸啓)の発表会でした。地域研究者を自称する以上、ノルウェー語もできないわたしがノルウェーについて発表するのは、おこがましいかぎりですが、それでも現地でのフィールドワークと各種統計を利用してわかったことを整理して、報告いたしました。今後の問題は、この4年間であきらかになったことを、いかにノルウェー史の文脈で解釈するか、ということになります。ですが、このことはノルウェー語のできないわたしには、困難でしょう。その分、ノルウェーの事例を世界の捕鯨や日本の捕鯨との比較で解釈するしかないと考えています。その意味では、地域研究ではなく、「捕鯨問題」研究の一環としての仕事に位置づけています。
来年度も、すでに4つの国際学会での発表が決まっています。これまでやってきたことを相互につなぎながら、さまざまな背景をもつ人びとに訴えていくとともに、少しずつ、活字化していきたいと考えています。
I 書いたもの
2018a 「ナマコの知」をもとめて――東アジアにおけるナマコ世界の多様性」,山田勇・赤嶺淳・平田昌弘編,『生態資源――モノ・場・ヒトを生かす世界』,昭和堂,288頁(19-54頁).
2018b 「瓦解を生きる術——マツタケに学ぶ柔靭さ」,『食品・食品添加物研究誌FFIジャーナル』223(3): 259-267.
2018c 「飽食化する食生活」国際開発学会編,『国際開発学事典』,丸善出版,72-73頁.
2018d 「ふたつの塩くじら」、『科学』12月号:1239-1241.
2019「近代捕鯨のゆくえ——あらたな鯨食文化の創発」,岸上伸啓編,『世界の捕鯨と捕鯨問題の現状』,国立民族学博物館調査報告,国立民族学博物館,印刷中.
2018年度に書いたもの、活字になったものは、この5本だけでした。これまでの研究人生で、もっとも生産の少ない年度のひとつのようです。ただ、マツタケという新らたな課題についての文章をまとめたり、『科学』の「和食」特集に鯨食について寄稿する機会を頂戴したりと、自分にとっての新しいテーマを、多少なりとも前に進めることができた、充実した1年だったと評価しています。また、来年度に刊行される「近代捕鯨のゆくえ」は、ノルウェーの近代捕鯨史をレビューするとともに、日本における南氷洋捕鯨の変遷をまとめた論考で、これまで書棚に寝かせていたHisory of Modern Whalingという大著に向きあう、よい機会となりました。個人的には捕鯨に賛成の立場をとっていますが、あくまでも「捕鯨はローカルな文化であり、日本のナショナルな文化ではない」との見地に立っています。この問題は、網野善彦さんが問いつづけてきた「日本とは何か」を問い直すことと同義でもあり、なかなかむずかしい問題を孕んでいます。まだまだ未熟な議論ですが、「ふたつの塩くじら」と「近代捕鯨のゆくえ」は、現時点での理解をもって、その難題に挑んだつもりです。
II しゃべったもの
a. "Inheriting Sea Cucumber and Shark Fin Foodways in the Age of Environmentalism." At the Sun Yat Sen University Second International Conference on Food and Culture: People, Ecology and Food, Panel 16: Unforgettable Chinese Food. Martin Hall, Ground floor, SYSU, Guangzhou, China, 2018/04/20.
b. "Multiplicities of Japanese Whaling:A Case Study of Baird’s Beaked Whaling and its Foodways." At the New Histories of Pacific Whaling: Cross-Cultural and Environmental Encounters, Session 4: Oil, Wax, and Meat. East-West Center, The University of Hawai’i – Mānoa, Honolulu, HI, USA, 2018/06/29.
c. 「高度経済成長期の食生活の変化を聞き書くーー食生活誌学のこころみ」,JOHA16シンポジウム「食に聴く・食を書く――食の媒介者たちをめぐる歴史と社会,第16回日本オーラルヒストリー学会大会,東京家政大学,2018年9月2日.
d. "Minke Whale Meat Supply Chain in Contemporary Norway." At the Whaling Activities and Issues in the Contemporary World, National Museum of Ethnology, Osaka, 2018/12/01.
「ノルウェーにおけるミンククジラ漁と鯨⾁のサプライチェーン」北海道大学低温科学研究所グリーンランド集会,北海道大学低温科学研究所,2018年12月19日.
2018年度で特筆すべきは、bとdでしょうか。bは、レイチェル・カーソン財団から助成をうけて開催された「太平洋における捕鯨史」について議論する学会でした。ロシア史やニュージーランド史の研究者をはじめとした歴史学研究者が中心になって組織したもので、太平洋捕鯨を北と南から見つめてみようというものでした。興味深かったのは、米国人研究者が、米国による太平洋の捕鯨史を、あたかも自分たちの庭先での話といった感じで報告することでした。このことの意義は、米国の太平洋政策の問題としても、考えてみる価値ありそうです。
あらかじめ原稿を提出し、当日は、その原稿にもとづいたディスカッションというスタイルは、わたしにとって、初めてのことであり、カンファレンスの手法を学ぶ、よい機会となりました。また、この学会に参加したことから、太平洋史、日本をふくむアジア海域史に関心をもつ研究者とのネットワークが広がり、来月ベルリンで開催される学会に招待されることになりました。可能なかぎり、貪欲に挑戦することの大切さを実感しています。
dは、この4年間、お世話になった科研費による研究プロジェクト「グローバル化時代の捕鯨文化に関する人類学的研究--伝統継承と反捕鯨運動の相克」(代表 岸上伸啓)の発表会でした。地域研究者を自称する以上、ノルウェー語もできないわたしがノルウェーについて発表するのは、おこがましいかぎりですが、それでも現地でのフィールドワークと各種統計を利用してわかったことを整理して、報告いたしました。今後の問題は、この4年間であきらかになったことを、いかにノルウェー史の文脈で解釈するか、ということになります。ですが、このことはノルウェー語のできないわたしには、困難でしょう。その分、ノルウェーの事例を世界の捕鯨や日本の捕鯨との比較で解釈するしかないと考えています。その意味では、地域研究ではなく、「捕鯨問題」研究の一環としての仕事に位置づけています。
来年度も、すでに4つの国際学会での発表が決まっています。これまでやってきたことを相互につなぎながら、さまざまな背景をもつ人びとに訴えていくとともに、少しずつ、活字化していきたいと考えています。
Posted by 赤嶺 淳 at 11:29│Comments(0)
│研究成果